24章

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「なんで……俺じゃだめなんだよ」 今にも泣いてしまうんじゃないかと思うぐらい桐谷課長は悄然としている。 「桐谷課……」 私が名前を呼ぼうとすると蓮が私を引き止め、首を横に振った。 「桐谷……美優だけは誰にも渡せない。でも他の物ならなんでもやる。地位も名誉もくれてやる」 蓮はそう言うと私の手をギュッと握って、 「帰ろう」 と、優しくそして柔らかく笑った。 でも…… 桐谷課長をこのまま置いて帰っていいのか躊躇ってしまって…… 私が動けないでいると…… 蓮が桐谷課長をちらっと見て…… 「桐谷なら大丈夫」 と言って私の手を引いた。 私は蓮に手を引かれながら部屋を出ようと桐谷課長の横を通ろうとすると、 「井上さん」 桐谷課長に呼ばれて足を止めると、同時に蓮も止まった。 「ごめん。すまなかった」 本当に申し訳なさそうにきっと心からそう思っているんだって私には伝わって…… 「次は桐谷課長が幸せになる番です」 きっと……きっと桐谷課長なら幸せになれる。 だって本当の桐谷課長は優しくて、思いやりのある人だって、一緒に仕事をしてきて私はわかったから。 過去に縛られないで前を向いて歩いてほしい。 そして蓮とも仲良くなってほしい。 「月曜日からまたよろしくお願いします」 ペコッと頭を下げて私と蓮は部屋を後にした。 一歩先に歩く蓮の手と私の手がきつく繋がれている。 そんな私達の手を見て…… 私と蓮はどんなことがあっても揺るがない愛でいたい。 そう心から思った。
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