25章

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「逃げるつもり?」 腰に手を当てて立つ蓮は不気味に微笑んでいる。口元は笑ってるのに目が……笑ってない。 「蓮もお腹空いたでしょ。だから、ねっ。早く食べに行こうよ」 と私は甘い声で言うと、 「美優」 真顔な蓮が私をじっと見ている。 「は、はい」 突然呼ばれてゴクンと唾を飲むと…… 「まっ……いっか」 「はあ?」 開いた口が塞がらず…… え?いいの? その諦めの早さに疑問を持ってしまうけど……諦めてくれたならそれで良しと。 「それで何食べに行くの?」 と、立ち上がったら、 「捕まえた」 「うわっ」 「ククッ、美優は隙がありすぎる」 それはまさかの展開で油断していた隙にまんまと蓮に騙された。 私は、真っ正面から抱きつかれ身動きできない。 「離してよー」 「美優が逃げるから悪い」 もお、いたずらする子供みたいだよ。 「ぎゃー」 そのまま私は担がれリビングに連れて行かれてしまい…… 手足をブランとさせて無駄な抵抗はもうしないことにすると…… よいしょ、と蓮が呟くと私をソファに座らせた。 「ククッ、あーおもしろい」 「えっー」 今日は何度この笑いを聞いたか…… おちょくられたことにムッときた私は肩を揺らして笑う蓮を睨むと、 「ごめん、ごめん。コロコロ顔が変わるからつい可愛くて、ククッ」 そんな顔で笑われたら……怒りたいのに怒れなくなるよ…… 「蓮のバカ」 「だって美優可愛いからいじめたくなる」 そう言うと横に座る蓮が私を力一杯ギュッて抱き締めて。 私のおでこにチュッと優しいキスをした。 私を見る柔らかい笑顔に私の胸が激しく騒いでる。 散々おちょくられてもそんなこと許せちゃうぐらいやっぱりどんな蓮も愛しく思えて。 こんな子供みたいで意地悪な蓮も私は全部ひっくるめて蓮が好きで。 蓮に身を委ねると私を抱き締める腕が強くなって…… こんな些細なことが幸せなんだと、私はそう思った。
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