27章

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「おはよう」 「おはようございます」 桐谷課長に声を掛けられ、私は自分の荷物をしまうのを一旦中断して挨拶をした。 朝の誘惑から会社に来るまで、やっぱり私は時間が足りなくて…… また蓮に冷たい一言を頂いて出社した。 「朝から疲れてるね」 私の顔を覗き込んだ桐谷課長はニヤッと怪しい微笑みで私を見た。 「そ、そうですか。そんなことないです」 「もしかして熱あるんじゃないか?」 桐谷課長の長い腕が私の目の前に現れて避ける暇なく温かい掌がおでこに触れた。 咄嗟に顔を引いたけど間に合わず…… 「熱はないか……あ、でも顔やっぱり赤いな」 そ、そ、それは桐谷課長が…… 桐谷課長が思いも依らぬことをしたからで。 熱なんてないのに頬が火照って熱い。 両頬を挟んで俯いていた顔を上げれば…… 口を少しだけ開けたままの蓮と目が合う。 うっ、もしかして今の……見てた? 蓮は私と目が合った途端、すぐにパソコンに目を向けてしまった。 桐谷課長はそんな私達を見ていたのか鼻でフッと笑って、 「あいつもわかりやすい奴だな」 笑ってる場合じゃないですって、桐谷課長。 蓮のあのポカンとしてあっけにとられた顔が目に浮かぶ。 私は頭を抱えて、帰った後の蓮のいじめ攻撃を考えた。 恐い、恐すぎる。 朝の拒否と桐谷課長におでこを触らせてしまったこと…… 恐る恐るもう一度、蓮を見れば鋭いあの目が血走っている。 今日……残業になってほしい。 おい、桐谷。 今、お前……美優のでこ触ってたよな。 何、触ってんだよ。 美優もなんでそこで、やめてとか言わないんだよ。 ……って、言える訳ないか。 上目遣いで桐谷ば見て赤面になってる意味がわかんないんだけど。 何、意識してんだよ。 あの桐谷の透かした顔が俺を更にイライラさせた。
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