28章

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「高杉くん」 同じ会社にいながらずっと会っていなくて高杉くんは変わらない笑顔で…… でもちょっと痩せた?仕事忙しいのかな。 でもほんとに会うのは久しぶりだった。 「ごめんね、ファイル大丈夫かな」 「大丈夫、大丈夫。それより久しぶりだな」 「うん。ほんとだね」 高杉さんはちらっと私を見てすぐに目を背け、一緒にファイルを拾ってくれて。 「相変わらずぼけっとしてるな」 「そ、そんなことないよ。あっ、でも今はちょっと考え事してて」 「考え事って……また部長のことか?」 ニヤッと笑った高杉くんと目が合って、見事に当たっていたことに頬を赤くした。 「あ、高杉くん」 「うん?」 「ううん……やっぱりなんともないかな」 蓮の噂を聞こうとしたけど、私は一瞬躊躇って聞くのをやめた。 「うわっ、もうこんな時間。私、もう行かなくちゃ。ぶつかっちゃってごめんね」 「おお、仕事頑張れよ」 「うん。ありがと」 高杉くんは手を上げて、丁度来たエレベーターに乗り込んでいった。 その後ろ姿を見届けてから踵を返し、ヒールの音を鳴らしてオフィスに向かった。 オフィスに戻れば梨花がペンを走らせながら電話の対応をしていた。 厄介な相手なのかペン先をメモ帳に刺すように突っついて眉間にしわを寄せている。 私はパソコンの電源を入れ、横から聞こえる梨花の声を聞きながら電卓を叩く。 「はあー参った」 「どうしたの?」 電話を終えた梨花はため息を吐いて背筋を伸ばす。 「私の説明を理解してないわ」 誰のことを言ってるのかな…… 私は梨花の機嫌を伺いながらさっきの噂話を聞いてみた。 「ねぇ、梨花。あのね、神堂部長の噂知ってる?」 「噂?」 「うん。さっきトイレでね、神堂部長の噂話をしている人がいてね。でも大事な所が聞こえなくて……」 「神堂部長の噂ね。私は聞いたことないけど」 梨花も知らないか…… 「そっか……」 「どうせ彼女と歩いてるの見たとか、結婚とか、そんな噂じゃない?」 「うん……そうなのかな」 情報通の梨花も知らないなら……ほんとにただの噂話なのかもしれない。 でもなんか気になってしまって…… 私は仕事をしている蓮を見ていた。
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