28章

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「おはよ」 「おはよっ」 朝の更衣室で梨花と一緒になり、着替えながら話をしていた。 「昨日ね、蓮に聞いてみたんだ」 「噂のこと?」 「うん。蓮はね、知らないって」 「ま、本人だしね。でもそういうのって意外に本人にも耳に入るから知らないってことは何もないんだよ」 「うん……そうなんだけど」 うーん?と唸ってイマイチ納得していない私の背中を梨花はビシッと叩いて、 「気にすることないんだって」 「痛っ、ちょっと梨花、本気で叩かないでよ」 「ごめん、ごめん」 ニカッと笑って梨花は制服のボタンを閉めながら、機嫌が良いのか鼻歌まで歌って。 蓮と梨花の言う通り、気にすることじゃないのかな。 「美優行くよ」 「あっ、待って」 ロッカーの扉を閉め貴重品を抱えて、私は梨花が待つ廊下まで小走りで走った。 「おはようございます」 「おはよう」 襟がピシッと糊付けされたYシャツを着た桐谷課長は、鞄をデスクに置き、持ち帰っていたのかノートパソコンを出した。 「井上さん聞いた?あの話」 「えっ?」 あの話ってなんの話? 私は目を見開いて不思議そうな顔で首を傾けた。 「あの話ってなんですか?」 桐谷課長は気まずそうに私から目を逸らして鞄から書類を出し、 「あ、今日さ、俺ずっと営業課にいるから。なんかあったら内線で呼んで」 「あの、桐谷課長。さっきのお話は」 「あれね、俺の勘違いだった。ごめん、気にしないで。じゃ、あと頼んだぞ」 「き、桐谷課長!」 逃げるように桐谷課長は私の前からいなくなって…… こんな中途半端に話をやめられたら気になっちゃうよ。 でも桐谷課長は颯爽といなくなり、私はオフィスから出て行くのを目で追うしかできず。 もお……なんなの?あの話って……
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