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「今日は混んでるね」
ふわっと笑う松田さんの笑顔は今日も優しくて、見ているこっちまで笑顔になる。
女子社員達のこそこそしゃべる声と冷たい視線が痛いほど突き刺さり、ここに座ってることに居たたまれなくなる。
だから一緒に座るのは嫌だったんだよね。
松田さんと梨花は付き合ってることは公認だろうけど……
早く食べてこの場から立ち去りたい、と思ってしまう。
梨花が松田さんの前に置かれた紙袋に指を指した。
「春樹、何それ?」
「これ?これね、外回り行った時サンドウィッチ買ってきたんだ」
「へ~、まさかちゃんと神堂部長の分も買ってきてるとか?」
「うん、もちろん」
少し引き突った顔で梨花は苦笑いをしている。
それが松田さんの優しさなんだよね。
「はい、蓮」
松田さんは蓮にサンドイッチを渡し、蓮はそれを黙って受け取る。でもサンドイッチはテーブルに置いてしまって……
すぐに食べない蓮が気になり、
「神堂部長……具合悪いですか?」
と、声を掛けたけど何も答えてくれず、私はもう一度名前を呼んだ。
「神堂部長」
「あ……ごめん、ぼっとしてた。何?」
「あの具合悪いんですか?」
「いや、普通だけど」
「そうですか……」
蓮は思い出したかのようにサンドウィッチの袋を開けて、口へ運ぶ。
ぼっとしてることなんてあまりないことで、具合が悪くないならどうしてそんなに顔色が悪いの?
いつもと違う蓮に胸騒ぎがしてドキドキと脈を打った。
きっと蓮も辛かったんだ。
一人で悩んでいたんだ。
この胸騒ぎの原因を知ったのは……
クリスマスの3日前だった。
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