29章

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私は蓮に言われた通り早くなる鼓動を押さえながらソファに座った。 蓮が私に何か伝えようとしている。 それは蓮を見て充分察した。 でも蓮は押し黙ったまま何も言わない。 私の不安が募るばかりで張り積めた空気の中、蓮が小さな深呼吸をした。 「美優……聞いてほしいことがある」 「うん……」 沈黙を破った蓮は自分の組んだ指を見ている。 「俺……」 冷静な声音で蓮は言った。 「海外赴任になった」 私は完全に硬直してしまって、心が乱れて言葉にならなかった。 嘘だよね?って聞きたい。 聞きたいのに蓮を見ていたらわかる。 それが嘘じゃないってことを…… 「年が明けたらニューヨークに行く」 喉の奥がジリジリ痛くなって、私の目からは涙が溢れていた。 だってもう今日は23日だよ。 クリスマスが終わったらすぐ大晦日が来ちゃうんだよ。 どうして…… どうしてもっと早く教えてくれなかったの? 私は手で顔を覆って肩を揺らして泣いていた。 行きたい。蓮と一緒にニューヨークに行きたい。 「蓮……私……一緒に」 「美優は連れて行けない」 それはあっさりと……私の一緒に行きたいという気持ちは打ち消されてしまった。 「どうして?どうして一緒に行っちゃいけないの?」 私は蓮の腕を握って何度も揺さぶった。 「ねぇ……どう……して……」 ずっと……ずっと。 一緒にいれると思ってたのに…… 私は泣き崩れて蓮の胸に頭を寄せて泣いていた。
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