29章

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専務に言われてからずっと考えていた。 美優をどうしたらいいのか…… 俺の意思を通して連れて行くべきなのか、3年も待たせておくべきなのか。 考えて、考えて、頭がおかしくなるぐらい考えた。 会社を辞めさせて危険が多いニューヨークに連れて行って、英語をろくにしゃべれない美優が向こうで働くなんて当分は無理だ。 あっちに行けば俺は仕事に追われる毎日で自宅に戻ることもきつくなる。 だからこの会社の海外への転勤は単身赴任が多い。 寂しがりの美優がそれに耐えられるはずがない。 3年待たせて、3年で帰って来れなかったら…… はっきりしない帰国に美優を何年も待たせてしまうことは俺にはできない。 連れて行きたい気持ちと待っていてほしい気持ちが何度も行き来して、それが俺を苦しめた。 俺だって別れたくない。 どんな手を使ってでも縛り付けていたい。 でも今回はそうもいかない…… 美優の人生が掛かっているから。 結婚の逃げ道も考えた。 でも結婚したからと言って連れて行くことも待たせることも結局は同じで。 俺がいない間、美優が一人寂しく泣いている姿を考えただけで胸が痛い。 そんな毎日を過ごすなら……別れることが美優のためなんじゃないかと考えた。 でも俺があの時海外赴任で行っていれば…… きっと今回は俺は行かなくて済んだはず。 あの時、社内の不正経理が発覚し俺がそれを見つけ出すことを条件に海外赴任を断った。 誰も見つけることができなかった架空の入出金を見つけ出し、会社を救った俺は昇格した。 あの時ニューヨークに行っていれば…… 今になって後悔するとは思わなかった。 こうやってズルズル考えているうちに美優に言えずに…… クリスマス間近になってやっと言う決心がついて…… 泣きじゃくる美優の前にいると俺の決心が何度も何度も鈍る。 でも俺は決めたんだ。 美優との別れを……
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