1章

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「井上、これコピーして」 はあ‥‥‥ またやっぱり私なんだね‥‥‥ 今日は月末で山のように大量のファイルがデスクの上に積み重なっている。 お金が動くこの経理課は月末が勝負。 一円でも合わなかったら合うまで絶対帰れない。 それなのにコピーをしてくれだなんて‥‥‥ 「はい」 重い腰を上げて神堂部長の所まで行って横に立つ。 「3時から会議が入ってるからそれまでに終わらせて」 「‥‥‥はい」 「それから」 え? まだあるの? 「10部コピーしたら会議室セットして」 ち、ちょっと待って。 それも私がやらなくちゃいけないの? 「神堂部長‥‥‥」 「何?」 普段、私と目を合わせない神堂部長が珍しく私の目を見た。 その鋭さに体がピクっと硬直する。 「それも‥‥‥私ですか?」 あ‥‥‥言ってしまったことに後悔してしまった。 眉間に眉を寄せ、鋭い目付きで一瞬だけ私を見て‥‥‥ 「やりたくない?」 どうしよう‥‥‥怒らせてしまったかも‥‥‥ 「やりたくないのか?」 「い、いいえ。やります。す、すいません」 怖い。あの目はやっぱり怖すぎる。 でもそんなに睨まなくたっていいのに。なんで私、こんなに神堂部長に嫌われているんだろう。 私は踵を返し、逃げるようにコピー機の前に行った。
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