5章

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「井上、これ資料室から持ってきて」 午前中の遅れを取り戻そうと必死になってパソコンとにらめっこしている時だった。 思いがけない蓮の声に体がビクッと跳び跳ねてしまっている。 「は、はい」 今日初めての近距離。 昨日まで嗅いでいた香水が鼻を通る。 私は渡された書類を受け取ると、他の社員が来てしまい、書類だけの受け渡しとなってしまって、目も合わさないまま資料室へ向かった。 いつ来ても薄暗い部屋で、ひんやりするここはどうも好きになれない。 いつの間にか私は蓮の中で資料室の探し屋さんになっているようで。 ま、息抜きにいいのかな。 電気のスイッチを入れたけど、 「まだ電灯取り替えてないんだ?」 早く取り替えてほしいな。 ブツブツと独り言を呟きながら、渡された書類に書かれているファイルを探す。 ガチャ、カチッ ドアを開ける音と鍵を掛ける音? 誰か来た? 「美優」 「蓮……?」 この間の資料室と同じ状況……
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