5章

16/17
前へ
/549ページ
次へ
「何も考えてない……」 「美優」 シートベルトを取った蓮が体を私の方へ向け、真剣な顔で私に言った。 「言いたいことがあるなら言って。我慢したり溜め込んだりしないで。俺は美優の思っていることを知りたいし、わがままだって愚痴だってなんだって受け止める。だから……自分の思っている気持ちを俺にちゃんと言ってほしい」 「蓮……」 ジワッと目に涙が滲んでいく。 どうしてこの人は私の気持ちを読んでしまうんだろう。 何も言わなくても一瞬で私の心を見抜いてしまう。 こうやって入社式から私を見ていたの? 「何か言いたいことあるんだろ?」 溢れ落ちる涙を蓮は優しく拭ってくれて、そんな仕草にも胸がギュッと痛くなる。 「私……まだ蓮と……一緒にいたい」 愛しそうな目でフッと口角を上げて優しく笑った蓮は 「よく言えました」 と、大きな掌で私の頭をクシャと撫でてくれた。
/549ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23658人が本棚に入れています
本棚に追加