5/5
前へ
/29ページ
次へ
向こうの山はぼんやりと光って、ふっと消えて、また光る。 何だか悲しい光だった。 怖いけれど、悪い感じはしないから、『良いものだと思う』と答えた。 「そう思うならば、本の一冊でも読むといい。アレも淋しがっておるからな」 ねこまたさんはそう言って、また丸まってしまう。 何で蛍と本が結びつくのかはわからなかったけど、光が悲しそうなのは多分、淋しいからなんだろうな、と思った。 その頃はまだ、『蛍雪の功』なんて言葉を知らなかったから。 あの夏の出来事以来、僕はすっかり本の虫になってしまった。 今でも、この季節になると、いつも以上に本を読みたくなる。 そして、読み終わった本を閉じて思うんだ。 あの光達が、淋しい思いをしていないといいな、と。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加