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「ねぇ、どうだった?」
3回目となるその曲を歌い終わった奈乃は目を輝かせながら迫ってきた。
相変わらずひどいな、と即答しそうになる気持ちを抑えて差し障りない感想を言う。
「さ、サビはさっきよりよかったんじゃない?」
「ほんと!?」
まるで初めてのおつかいを褒められた子どものようにキラキラした目で俺の感想を噛みしめている。
一応うそは言っていない。
ただものすごくぼかした表現だったが…
teketeke…
が、そんなとってつけたような幸せが長続きするわけもなく、目がチカチカするくらい光を放っているモニターが無常に現実を叩きつけた。
『18点!!』
ここまでくればもう言うまでもないが、俺の彼女、御池奈乃は『音痴』である。
「うぅ…」
空気を読んでくれなかった採点マシンの評価に涙目になってうなだれる奈乃。
いや、そもそも何点くらいだと思ってたのか聞いてみたいぞ…
怖くて聞けないけど…
かくいう俺も一回目を聞いた後には、カラオケで10点台なんて本当にありえるんだなぁと関心してしまった。
さらに2回目を聞いて考えた、逆にその点数はどこから来たのかと。
そして3回目、きっと採点マシンも困ってしまってとりあえず音声らしき信号を認識しました、的な評価だったに違いないという結論に達した。
うん、このことは心の奥底にしまってお墓まで持って行こう。
「でもさっきより『高得点』ってことは少しはうまくなったってことだよね!?」
うつむいていた奈乃が顔をあげながら救いを求めてこちらに目を向ける。
こら、その上目遣いは反則だろ。
『高得点』というワードに疑問を感じかけた矢先、思わぬ不意打ちに心を揺さぶられてしまった俺は、ダメと思いながらも仮初めの救いを与えてしまう。
「あ、あぁ…そうだな」
2点だけど…
ただ、そんな俺の言葉を聞いて小さくガッツポーズをする奈乃が可愛かったので、まぁいいかと思う俺であった。
「ちょっとお手洗いにいってくるね」
そんな仮初めの救いで18点のショックから復活したらしい奈乃は、すぃーっという効果音が出そうな軽快さで部屋から出て行った。
さてここで予告しておこう。
もうしばらくすれば奈乃が天から与えられし五物のさらに幾つかが明らかになるとーーーーー
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