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流れてくる硝煙に、男は思わず目を閉じた。
船長になってから初めての航海。その航路で、いきなり予想していなかった事態に遭遇している。
海賊の襲撃。
水夫だった頃から、一度も海賊に襲われた経験はなかった。だから自分の船が襲われるということはまったく考えていなかったのだ。
今、男の耳には、甲高い金属音と野蛮な喚声だけが届いている。
商船の乗組員として集まった人間たちだ。戦い慣れた海賊に勝てるはずがない。男は早々に戦いを放棄し、その場に座り込んでいた。
そこに、
「あんたが船長か?」
という声が聞こえた。
男が顔を上げると、そこにはまだ二十になっていないであろう青年が立っている。ただ、その姿は異常の一言だった。
黒い鍔広帽に、宝石をあしらった黒のジャケット。
ズボンとブーツも黒で、ベルトは黄金だ。さらに首からは、これまた黄金の十字架(クロス)をさげている。装飾過多。
青年は右手に持つ、騎兵用のサーベルを突き出してきた。切っ先が鼻に当てられ、男は小さな悲鳴をあげた。
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