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一人の少年が、部屋の窓から薄く曇った空を見上げている。
「…母さんが死んでもう三ヶ月も立つのか…」
少年は、どこか物悲しくそう呟くとゆっくりと目を閉じる。
瞼の裏に今でも鮮明に映る母の姿に少年は、今まで母と過ごした日々に思いを馳せた。
この少年の名は、水無月麗惺。
少し裕福な母子家庭で育った見目麗しい美少年である。
その美しさは、一度街を歩けば万人が振り返り恍惚としたため息を吐いてしまうほど。
「…よし。昨日の続きを…」
麗惺は、ゆっくりと目を開け、そう呟くと気を取り直してパソコンに向き合った。
【ピリリリ!ピリリリ!】
そんな麗惺のやる気を削ぐかのように突如電話の呼び出し音が響き渡る。
麗惺は、一度時計に視線を向けて訝しげに目を細めると電話に視線を向ける。
時計の針は、深夜の9時半をさしており、到底電話をかけてくるような時間ではない。
「(誰だ?)」
麗惺は、内心で首を傾げながらも電話を鳴りっぱなしにするわけにも行かず受話器を取ったのだった。
「もしもし…」
『あ!麗惺かい!?』
受話器の向こうから聞こえてきたのはまだ若い男性の声。
しかし、麗惺にはその男性の声に聞き覚えが無かった。
「…どちらさまでしょうか?」
麗惺は、いきなり自分の名を呼ばれたことに驚きながらも相手の男性にそう尋ねた。
『!…そうか…そうだよなぁ…もう10年も会ってないんだもん…俺のことなんて…』
受話器の向こうからさめざめと泣く声が聞こえ、麗惺は眉根を寄せる。
「(10年…)」
麗惺は、10年という単語に一つだけ思い当たることがあり少しだけ考え込む。
それは、10年前に離婚してから一度も連絡を取っていない父親。
雅司のこと。
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