序章~猫かぶり~

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「…本当に良かったの?」 麗惺の部屋を後にした三人は別の一室で神妙な顔をしていた。 そして徐に和茨がそんなことを尋ねる。 勿論その疑問を向けたのは目の前にいるこの兄、雅司だ。 「なにがだ?」 「…麗くんに如月を名乗らせてだよ!」 「水無月の方が安全なんじゃないかな?特にあそこでは…」 「何のために俺がいると思っている?」 和茨の言葉を雅司は、低い声で遮った。 その声と態度は先ほど麗惺と話していたときの温かみは微塵も感じられない如月の総帥のそれ。 「本当に麗くんの前とでは全然性格違うよね兄さん…」 「当たり前のことを言うな…麗惺と他の屑どもを同列で扱えるか!貴様らだってそうだろうが…」 雅司は、そう言って和茨たちに鋭い視線を向ける。 「まぁ、他を麗くんと同じように扱うなんてこと出来るわけ無いけど…それでも兄さんよりはマシだね」 「雅兄ほど猫被ってないし!」 「そういうこと…」 「フン…和、颯…わかってるな?」 雅司は、冷たく鋭い視線を二人に向ける。 二人は、その冷ややかな瞳に戦慄を覚える。 麗惺とはまた違う王の資質それをこの兄に感じずにはいられない。 そう麗惺が民を思う優しき光の王ならばこの兄は強さとカリスマ性だけで兵を率いていく氷の皇帝の如し。 二人は、王に傅く騎士のように頭を下げ一言“御意”と答える。 「麗惺さまは、我々の命に代えましても…」 「お守りいたします…」 和茨と颯史は、雅司を兄としてだけでなく王として敬愛している。 「「我らが主のために…」」 その部屋に二つの声が響いた。 「…まぁ、もしものときは指をくわえて見ているつもりは無いがな…」 雅司のひやりとする呟きを聞いていたのは弟であり腹心の部下である二人だけ。
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