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まだまだ蒸し暑い8月下旬の東京の街中に3週間の入院生活を終えた彼女、右帥 麻呼(ウスイ マコ)、この物語の主人公は、少し早歩きに目的地を目指していた。
ことの起こりは、3週間と2日前、麻呼の友人駒井 涼子(コマイ リョウコ)に連れられて彼女の実家に行った時の話だった。
麻呼は、元々、幽霊や妖怪などの類を見ることのできる霊能力者だった。
そこでとある出来事に巻き込まれ右脇腹に全治2週間の怪我を負ってしまったのだ。
そして出血多量のために大事をとってのプラス一週間の入院となったのだった。
「うー、体がだるいー」
麻呼は、仰々しい溜め息をつきながらまるで誰かに訴えるようにそう言った。
すると、こんな街中に居るはずの無い生き物が、彼女の隣を歩きながら心配そうに見上げてくる。
その生き物とは、4本足に白い毛並みの狐だった。
≪まだ、本調子じゃないんだ、やっぱり無理せずに家で休んでたほうが…≫
白い狐は、信じられないことに麻呼を見上げて心配そうにそう言った。
「…心配してくれてありがと、明(アキラ)。でも、大丈夫、最近全然運動してなかったから少しだるいだけ」
麻呼は、そう言って狐にニッコリと笑いかけた。
道行く人々は、こんな街中に居るはずの無いこの狐とすれ違っても声を上げるどころか驚く素振りさえ見せない。
これはたんに、この町の人々がこういった光景に慣れているからという訳ではなく、ただたんに彼らには、この狐の姿が見えていないからなのだ。
それもそのはず、この狐は本当に特別な人間にしかその姿を見ることは出来ない。
そう、この狐は、いわゆる妖怪と言う部類に属しているのだ。
つまり、この狐の姿を見ることの出来る麻呼は、特別な人間という事になる。
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