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週末の大通りを黒猫が歩いている。
木枯らしが落ち葉を乗せて通りすぎる。太陽はしずみ三日月が空に浮かぶ。街には三日月のささやかな光が降り注いぐ。
そんな中、黒猫はご自慢のカギ尻尾を水平に実に威風堂々と街をかっぽする。彼はその黒々しい姿のため人々から嫌われていた。今も、彼を視界にとらえた人々は怪訝な顔をして通りすぎていく。
突如、闇に溶ける黒猫の体目掛けて石が飛んできた。しかし黒猫は、柔軟な体をひねりヒラリとかわす。「フン。いつもの事だ。」と鼻をならすと、また闇に溶け込み堂々と歩きだす。
黒猫は孤独に慣れていた。それどころか、むしろ孤独を望んでいた。誰かを思いやることなんて煩わしいと思っていた。そんな黒猫の体がふいに浮き上がる。彼は慌てて後ろを振り返る。
黒猫が浮き上がった原因は青年。猫は青年に抱き寄せられていた。
この世界で、黒猫をわざわざ抱くという行為は、変わり者以外の何者でもないのに。
変わり者の歳は20代前半であろう。脇にはスケッチブックと筆やらペンやらを挟んでいる。若い絵描きと言ったところだ。
絵描きは驚き呆気にとられている黒猫の目を見て
「こんばんは。素敵なおちびサン。なんだか……僕らよく似てるね。」と優しく微笑んだ。
三日月のささやかな光が、1人と一匹を優しく包み込む。すると風は止まり、肌寒さを消した。
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