「別れ」

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――― ―――――― 黒猫が絵描きに追い回された日。今はもう、2年も前の話だ。 黒猫と絵描きは2度目の冬を過ごしていた。 絵描きは、真っ黒な友達に名前をやった。 『黒き幸"ホーリーナイト"』 歩く黒猫、寝ている黒猫、じゃれている黒猫。絵描きのスケッチブックは黒ずくめの友達で一杯になっていた。 黒猫も初めての友達にくっついて甘えた。生まれて初めて心を開いた。生まれて初めて優しさを知った。絵描きから沢山かけがえのないものをもらった。 しかし、ある日…… ――バタッ!! 黒猫は窓からしんしんと降る雪を見ていた。すると、背後から何かが倒れる音が部屋にひびいた。猫は体をビクリと振るわせ、後ろを振り返る。その猫の目には倒れた名付け親が映った。 名付け親は体を引きずり、近くにあった机から紙とペンを取り出す。彼の最後になるであろう手紙を書き終えると、こう言った 「ホーリーナイト…お前の足でコイツを届けてくれ……夢を見て…村を飛び出した僕の…帰りを待つ恋人へ。」 絵描きは、この2年間黒猫を書き続けた。不吉な黒猫の絵など売れないのに……それでも黒猫をひたすら書き続けた。 日に日に弱っていく絵描き。しかし、言葉の通じない黒猫にはどうする事もできなかった。 結果… 黒猫の親友は冷たくなった。 その日、絵描きの家から猫の悲痛な鳴き声がやむことはなかった。
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