一球目

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山上高校の軟式野球部グラウンドの隅、バックネット裏の小さなベンチに腰掛ける2人は小一時間何もやらずに座っている。 「なぁ瀬川?」 「は、はい?」 茶髪で短髪な目つきの悪いユニフォーム姿の男子生徒が横に座る瀬川と呼ばれた眼鏡をかけたユニフォーム姿の女子生徒に話しかけた。 「誰も来ないな」 「誰も来ませんね、水田先輩」 そう、誰も来ないのだ、何時間待っても誰も来ない。 「お前と同じクラスの奴いたじゃん、峰岸だっけ?あいつも来ないな?」 「そ、そうですね」 水田はその鋭い眼光を瀬川に向ける、瀬川はそれに気付き目をそらした。 「ホント来ないな?」 「き、来ませんね~」 「お前さ・・・」 「は、はい?」 再び鋭い目で睨まれ瀬川は目をそらした。 「何か隠してんだろ?」 「ギクッ」 「『ギクッ』って口に出しやがった」 「な、ななななな、なにも隠してなんか・・・・」 明らかに不自然な瀬川をみて水田はため息を吐いた。 「怒んねぇから言ってみ?」 「そ、その、あの・・・・」 ~五分後~ 「あの、それが・・・・その」 「早よ言えや!!!」 「ひぃっ、やっぱり怒るじゃないですかぁ~」 泣く瀬川、やっちまったと少し後悔する水田。 まだ誰もグラウンドには来ない。 「だから早く言えって・・・怒ってねぇから」 本当はブチギレそうだがぐっと我慢をして、無理して笑う。 「え、笑顔も・・・・怖いです・・・・」 (こ、コイツ・・・・) 水田は耐えた、必死で耐えた。
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