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館全体を包む喧騒が、館の最奥にある長の執務室にまで気配を伝える。
「今日は、何か騒がしいな」
「そうですね。皆、昨日の通達のせいで浮き足だってますから」
二人の穏やかな会話を、扉を叩く音が遮る。
「入りなさい」
執務机に座る、この部屋の主が許可を出す。
少々、緊張した面持ちでシェロウが入ってくる。
「長さま、何か御用でしょうか?」
「お前に"暁"様の側付きを頼む」
闇の長の言葉に、シェロウは驚くと訊き返した。
「あの、私でよろしいのでしょうか?」
これには傍らの長の側付きが答えた。
「"暁"様と一番親しいのはお前だ、世話になったのだから、これぐらい当然だろう」
二人の視線が優しく見つめる。
館に戻ったものの、相変わらずシェロウの立場は弱い。長きの理由不明の不在を訝る者が居るのだ。
しかし"暁"の魔法使いという後ろ楯があれば、もはやシェロウをどうこう言える者は居なくなる。それを踏まえた上での指示なのだ。
「もうすぐ到着されるだろうから、出迎えて、ここまで案内するように」
「はい、わかりました」
シェロウが執務室を出ていくのを、二人は笑顔で見送った。
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