見えない距離

2/23
前へ
/23ページ
次へ
私には毎日の日課がある。 それはお隣にいる低血圧男を起こしに行く事。 それは目覚ましが鳴ろうが耳元で怒鳴られようが絶対に起きない。 だから私が毎日イタズラをしに行くのだ。 「か~な~た~…彼方ってば~‥早く起きないと遅刻するよ?」 そして今日も。いつものように起こしに来たのだった。 彼方の部屋のドアをとりあえずノックをしてみて、返事があるかをチェックする。 ――案の定、返答はなし。 「今日はどう起こそうかしら?」 毎度の楽しみはこの瞬間。 私にしか出来ない特権。 「ダイブしてやろうかな~…」 呟きながら勝手にドアを開けて部屋の中に入る。 サッカー選手が表紙の雑誌やサッカーボールとかいくつもの日常品が床に散らばっていた。 ――相変わらず汚い。整理整頓の能力がないのかしら、このサッカーバカは…ι 「彼方~‥?」 布団に潜り込んでるせいか頭しか見えないこの男。 「彼方ってば、遅刻になるって!」 布団を捲って彼方の肩を揺すってみる。 「‥ん~…」 「反応するならとっとと起きろよ、サッカーバカ」 「…ん~」 何回揺すっても頬をぺちぺち叩いてもただうんうん、と唸るだけ。──今日は耳元攻撃にしてやる。 私は思いっきり息を吸って無防備に寝てるこの男の耳に向かって叫んだ。 「起きんか、岸本彼方ぁああぁっ!!」
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

179人が本棚に入れています
本棚に追加