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やがて彼方がうろうろと挙動不審に歩き回りだした。
何やってんのよ、あのバカ‥
「──彼方先輩!」
彼方を呼ぶ声。…何であたしがこんなにドキドキするのよ?
心臓のドクンドクン、って音が耳に響いて煩い。
私は思わず身を乗り出して様子を伺った。
──目の前に見えたモノに私は衝撃を受けた。
「お前…木村、だよな‥1年の」
「はいっ!彼方先輩のプレーに憧れてサッカー部に入りました!」
「それ‥体験入部でも聞いたんだけど…ι」
「はい、サッカー部に入ってからも彼方先輩への憧れは強くなるばかりで…もう好きなんです!彼方先輩のプレーが!」
「…そりゃどーも‥で?何の用だよ、こんな回りくどい手紙よこしやがって‥」
「俺からの細やかな手紙ですっ♪ただの後輩じゃなくて‥弟子にしてくださいっ!」
「──それはそれで構わないけど?」
「ホントですかっ?やったぁ♪じゃあ今度から彼方先輩に特訓してもらえますね!」
「え?…あ、ああ‥」
「やったぁっ♪自慢になるぜっ!じゃあ先輩…いや、師匠!お疲れ様でしたっ!」
「あ、ああ…お疲れι」
その子はペコンッと深々頭を下げた後足取り軽く去って行った。
私は笑いを堪え切れなくて口を抑えて笑った。
──腹痛になりそう。肩がふるふる震えてるのよくわかる。
彼方が持ってる乙女ちっくな封筒の相手がまさかサッカー部の後輩の男の子からの手紙だなんて。
──しかも『告白』じゃなくて『告白紛いの弟子入り祈願』だし?
やっぱり彼方が告白されるなんて有り得なかったのよね。
──すっきりした。ヤボ用も済んだみたいだし、自転車置き場で待とうっと。
私はすくっと立ち上がると自転車置き場に向かって歩きだした。
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