見えない距離

7/23
前へ
/23ページ
次へ
やがて彼方がうろうろと挙動不審に歩き回りだした。 何やってんのよ、あのバカ‥ 「──彼方先輩!」 彼方を呼ぶ声。…何であたしがこんなにドキドキするのよ? 心臓のドクンドクン、って音が耳に響いて煩い。 私は思わず身を乗り出して様子を伺った。 ──目の前に見えたモノに私は衝撃を受けた。 「お前…木村、だよな‥1年の」 「はいっ!彼方先輩のプレーに憧れてサッカー部に入りました!」 「それ‥体験入部でも聞いたんだけど…ι」 「はい、サッカー部に入ってからも彼方先輩への憧れは強くなるばかりで…もう好きなんです!彼方先輩のプレーが!」 「…そりゃどーも‥で?何の用だよ、こんな回りくどい手紙よこしやがって‥」 「俺からの細やかな手紙ですっ♪ただの後輩じゃなくて‥弟子にしてくださいっ!」 「──それはそれで構わないけど?」 「ホントですかっ?やったぁ♪じゃあ今度から彼方先輩に特訓してもらえますね!」 「え?…あ、ああ‥」 「やったぁっ♪自慢になるぜっ!じゃあ先輩…いや、師匠!お疲れ様でしたっ!」 「あ、ああ…お疲れι」 その子はペコンッと深々頭を下げた後足取り軽く去って行った。 私は笑いを堪え切れなくて口を抑えて笑った。 ──腹痛になりそう。肩がふるふる震えてるのよくわかる。 彼方が持ってる乙女ちっくな封筒の相手がまさかサッカー部の後輩の男の子からの手紙だなんて。 ──しかも『告白』じゃなくて『告白紛いの弟子入り祈願』だし? やっぱり彼方が告白されるなんて有り得なかったのよね。 ──すっきりした。ヤボ用も済んだみたいだし、自転車置き場で待とうっと。 私はすくっと立ち上がると自転車置き場に向かって歩きだした。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

179人が本棚に入れています
本棚に追加