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追って来るのは、『猟師』だ。
『兎』は足を早める。
足は痛み、息が苦しい。
それでも『兎』は駆けた。
『猟師』に捕まれば、自分がどうなるかはよくわかっていた。
死が待つのみだ。
待つよりも、逃げたかった。
逃げのびて、その先に何があるかはわからない。
だが、死ぬよりはずっといい。
『兎』はただ生きたいだけだった。
自由が欲しかった。
『餌』になってしまうのは、嫌だった───。
「いたぞ!」
幾人の『猟師』が『兎』の姿を見て、発砲した。
弾丸は『兎』の足元すれすれに土を砕く。
『兎』は駆けた。
この昏い森さえ抜ければ、なんとかなる気がした。
木々の分かれ目が見えた。
『兎』は必死に駆けた。
抜けた先は、断崖。
目の前には海が広がっている。
『兎』は足を止めてしまった。
そのとき。
───ばがん。
一際大きな銃声とがしたかと思うと、右手に激痛が走った。
『兎』は右手を見た。
あったはずの右手の掌は、なかった。
それが地面に落ちていくのを、『兎』は見た。
気が遠退いていく。
疲れ果てた足はふらついて、
『兎』の身体はあまりにも速く、海へと落ちていった。
───自由なんて、無理だったんだ。
喪失感にとらわれた時には、既に冷たい闇色の海水を感じていた。
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