Isola Solitaria

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 潮風は、好きだ。  漁港に漂う魚の生臭い匂いやその魚の血の匂いは嫌いだが、潮風とその香りだけは好きだった。  甲板で心地よい潮風を受けて、僕はゆっくり目を開いた。用意されているボロボロのベンチは、高校や遊びに行く時に必ず座っている。何故か誰も座りたがらないので、ほぼ僕専用のベンチだった。  天気予報の話だと今日の記憶は30度。暑いが潮風のおかげで助かる。暑さと潮風が中和して、さらに心地いい。空は晴天、眠くなってもおかしくない。僕はもう一度目を閉じた。 「───ナツー」  呼ばれて、目を開けた。声のした方を見ると、孝明(たかあき)が手を振りながらこちらに向かってくる。ベンチに横たわっていた僕は体を起こし、姿勢を正した。  孝明は中途半端に染めた茶髪(ちなみに天パ)を気にしながら、僕の隣りに座った。 「またここにいたんだ。好きだよなー」 「いいだろう。僕専用だ。特別に貸してやるよ」 「それはありがとーごぜーます」  孝明は手を重ね僕に拝むようなポーズをとる。それを見て僕は笑い、彼も笑った。 「にしても、しばらくはこの定期船には乗らねえな」 「遊びに行かないのか?」 「んー。家の手伝い兼アルバイト。金貯めてから夏休みを満喫するさ」  孝明の実家は民宿で、夏になると海水浴に来た客たちが泊まる。普段は孝明の両親と従業員2名で何とかなるらしいが、この時期は違う。人手不足もあって、孝明は本土のバイトより実家でのバイトを選んだらしい。  
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