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孝明と僕こと、暮橋夏樹(くれはし なつき)は東北に最も近い、関東にぎりぎり入る離島───琴形(ことなり)島で育った。なんで琴形なんて名前かと言うと、そこまで大きくない島だが琴の形に似ているからというありがちな話。
離島と言われてるのだから、本土から離れている。定期船で1時間ほどかかる距離だ。その定期船なんて、1日に3回が限度(高校に行く時間に定期船はないので大抵近所の漁師さんに頼んで、行きだけは漁船に乗っている)。夏の海開きがなければ観光客なんて少数な田舎で、少子高齢化や人口の過疎化も激しい。高校生は16名、小学生は10名、幼稚園児は7名という始末。確か島の人口は500にも満たないはずだ。
はっきり言って、不便な島だろう。そのせいで僕たちより上の若い人間は島を出て、都会に暮らしている事が多い。もちろん、僕らぐらいの世代も都会に憧れる。しかし僕と孝明はそこまでではなかった。
「本土のほうが明らかに給料がいいんだけどさ。やっぱり家の手伝いって大事じゃね?いずれは俺が継ぐワケだし」
「お前に継がせたら、民宿潰れるな」
「せーよ」
孝明は都会に行くという事に対して憧れはあるもの、家のことを考えて行く気にはなれない。そこまで酷くはないらしいが認知症の祖母が、一番の心配なのだろう。孝明はいわゆるおばあちゃんっ子だったし、今度は自分が支えなければとも思っているのかもしれない。
一方、僕は興味がないだけだ。いまいち『都会』にぴんと来ない。遊びに行くのにうってつけだろうが、住みたいとは考えたことがなかった。
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