二章:基礎教練

3/21
前へ
/42ページ
次へ
     何もなかった空間にうっすらと何かが現れる。    薄く、目ではっきり確認できないそれは、僕らが歩みを進めるとともに徐々に線を、色を得ていく。    一分ほど歩くと、もう目にはっきり見える程度になった。    真っ白な空間だった周囲には、街が広がっている。    ビルや店や信号機が並ぶ、いかにもな大通りだ。    普通と違う点は、動かない車が道路に置いてあることや、人が僕達以外に誰もいないことか。   「ううむ……」    何もない空間に街が現れる。僕が今見たことは現実には有り得るだろうか?    小さく唸って考える。少しも経たずに答えが出た。無論、ノーだ。    これは僕が暮らしてきた世界では有り得ないことである。    つまりはクロの言う夢の住人やら、夢の世界やらが本当のことだ、ということになる。    やけに冷静な自分に驚きつつ、僕は立ち止まったクロへ問いかけた。   「ねえ、クロ。 風景が変わったけどこれって……?」   「あ、はい。 適当な人の夢に入りました。一応、日本の人みたいですね」    僕へと振り返り、クロははっきりと言う。    夢に入った……か。  
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加