30人が本棚に入れています
本棚に追加
何もなかった空間にうっすらと何かが現れる。
薄く、目ではっきり確認できないそれは、僕らが歩みを進めるとともに徐々に線を、色を得ていく。
一分ほど歩くと、もう目にはっきり見える程度になった。
真っ白な空間だった周囲には、街が広がっている。
ビルや店や信号機が並ぶ、いかにもな大通りだ。
普通と違う点は、動かない車が道路に置いてあることや、人が僕達以外に誰もいないことか。
「ううむ……」
何もない空間に街が現れる。僕が今見たことは現実には有り得るだろうか?
小さく唸って考える。少しも経たずに答えが出た。無論、ノーだ。
これは僕が暮らしてきた世界では有り得ないことである。
つまりはクロの言う夢の住人やら、夢の世界やらが本当のことだ、ということになる。
やけに冷静な自分に驚きつつ、僕は立ち止まったクロへ問いかけた。
「ねえ、クロ。
風景が変わったけどこれって……?」
「あ、はい。
適当な人の夢に入りました。一応、日本の人みたいですね」
僕へと振り返り、クロははっきりと言う。
夢に入った……か。
最初のコメントを投稿しよう!