第一村人発見ッ!!

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多分俺の身体は、単純な身体能力だけではなく、聴覚と嗅覚のような感覚も向上しているようだ。というのも、耳を澄ますと微かに水音が聞こえるし、微妙な温度変化を敏感に感じているんだ。 俺はそれに逆らわず、ひたすらそこに歩いていく。木漏れ日を浴びながら、鳥達の囁きを聞きながら、ただ歩いていく。2㎞も歩いただろうか?だんだんと僅かだった水音は、既にごうごうとした急流を思わせる音へと変化した。 突然、森のカーテンが開いたように景色は明るくなった。幅が10mはある川が現れた。 俺は取り敢えず飛び込み、身体から熊の血を洗い流し、ごくごくと水を飲んだ。文明の影響の無い水は美味かった。まさに清流という感じだろう。そして皮をじゃぶじゃぶと洗っては、石でなめしていく。繰り返し繰り返し。 だいたい満足した俺は浅瀬に仰向けに寝転んだ。変な緊張感から解放されたからか、急に身体の"ほてり"を感じたのだ。だから冷やす。 いまさらながら、俺は異世界にいるんだな。来たきっかけは何とも胡散臭いが、現実に俺はここにいる。 水の流れが身体を冷やし、その心地よさに目を閉じた。俺はこの世界に一人なんだな。肉親や親友はおろか、仕事上の薄い知り合いすらもいないんだな。 そう思ったら涙が少し出た。冷やされた身体の温度とは異質な熱さを感じる。そうだ涙は熱いんだ。そうおもったら涙はとめどなく流れだしてしまった。 抱き締めてくれる温もりはこの世界には無い。だから涙の温もりは心地よかった。嗚呼、淋しいなぁ。 そんな風に黄昏ていたら、何処かで女の悲鳴が聞こえたような気がした。反射的に飛び起きた俺は、熊マントを羽織ると悲鳴が聞こえた方角へと一目散に走りだした。 だって、第一村人発見だもん。
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