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とにかく走る。この身体で全力疾走すると、多分えらい速度で走っているんだろうが、自分じゃよくわからない。ただ、俺の顔の高さにせり出している小枝が顔に当たって痛い。まぁ、切れたりはしないのだが。
しばらく走っていると、数百メートル先に何か白いモノを群れで囲む狼が見えた。10頭はいるだろう。その白いモノはなんなのかはわからないが、狼の狩りの対象になっているのは間違いない。
俺はさらに加速し、今まさに飛び掛からんとする狼の一頭に、走る勢いのまま前蹴りを叩きつけた。
ドカッ!!
キャインッ
狼の横腹を蹴り抜いた前蹴りにより、狼はすっとび、木の幹に当たり、内容物をぶちまけ破裂した。我ながら恐ろしい威力だ。
突然の乱入した俺の暴挙に、狼達は一瞬たじろいだようだが、やがて標的を白いモノから俺にスイッチしたようだ。野生動物は、恐怖=闘争という単純な防衛本能に忠実なのだろう。
じりじりと狼達は俺との距離をつめていく。円で包囲しながら。
むかし、柳生一族の裏の仕事を司っていた部門――所謂、裏柳生という集団は、確実に仕留めなければならない相手に対して、乱陣という作戦を使ったという。
攻撃対象を集団で円を描いて囲み、一斉に攻撃を仕掛けるのだ。上段、中段、下段を同時に仕掛ける。例え相手が達人であろうと、必ず誰かの攻撃は当たる。そして止めをさすのだ。いま狼達がしようとしている事はそれに近いだろう。
俺と狼達の距離は僅か数メートル。やがて一頭が涎を撒き散らしながら、狂気の牙をむき出しにして俺に飛び掛かった。すると触発されるように全頭が飛び掛かってきた。
俺は考えるのを放棄して、とにかく身体が反応するまま暴れることにした。
低く飛び掛かったやつを踏みつけて絶命させ、上から飛び掛かったやつをぶん殴る。噛み付いてきた数匹は無視し、とにかく飛び掛かる狼を殴り、蹴り、踏み潰す。両手にぶら下がるように噛み付いている狼は、一頭ずつ頭を握り潰した。所謂アイアンクローだ。
気が付いてみれば辺りは夥しい数の狼だったものが転がり、周りは血の海だった。
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