七夕物語

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「‥おい、いつまで居座るつもりだ?」 「……絳攸が迷子になって諦める頃まで。」 甘栗色の髪で紫の衣を着た十六歳程の少女は、声の主から顔を逸らし紅が引かれた唇を尖らせた。 ここは御史台長官室。その奥中央に置かれた豪華な椅子には、彼の女性官吏と競いその力を見せ付けた男―――陸清雅が座っていた。 清雅は眉に皺を寄せながら呆れた溜め息を付く。 「お前、本当にあいつの子か?似たのは顔だけだな。」 李絳攸は吏部尚書職の傍ら、少女の教育係も受け持っている。そんな彼から逃げる少女は両親とは正反対でかなり勉強嫌いだ。 少女は清雅の言う〝あいつ〟が誰か聞かずともわかり、桃色の頬を膨らませ立ち上がった。 「私は私よ!みんなして母様母様って…ッ誰も私を見てくれないんだから!!」 フンッと鼻を鳴らして唯一ある扉に向かう。そんな彼女の背を見つめ、清雅は笑った。 「‥ま、お前よりはマシな女だったからな。」 「…ッ!」 少女は扉を掴む手に力を込めた。 「――最低!そんなだから長官は四十過ぎても独身なのよ!!バーカバーカ!」 バンッ――――! 文句だけを言って少女は勢い良く扉を閉め、部屋の向こうに駆け出す音を響かせた。 清雅は少女が消えた扉を見つめ、次いで溜め息を漏らす。徐に天井を見上げ、哀しげに呟いた。 「……誰のせいだと思ってやがる…」 その呟きは誰の耳に届くことなく、静かに消えた。 (…早く、行ってこい。) ―――そして、知れ。 >
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