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「―――もう!何よ長官めッ…」
御史台を立ち去った少女は人気の少ない倉庫へと来ていた。未だ頬は膨らんでいて、ご機嫌斜めのご様子。
何故こんな埃まみれの倉庫に来たのか分からないが、絳攸から身を隠すには十分のはずだと思い、暇潰しになる物は無いかと辺りをゴソゴソと漁った。
「…ん?コレなんだろ…」
大量の荷物を退かし進んだ先に、年期の入った書物が一つ目に付いた。上にはどれだけ放置されていたのかを物語る埃が積もっていて、少女は顔をしかめながら埃を叩く。そうして見えてきた文字に首を傾げた。
「た、な‥ばた…ものがたり?」
ボロボロで読むのも難しかったが何とか解読した少女は、著者を探す。しかし見つからず諦めると、適当なところを開く。軽く文面を読むと名前通り物語のようで、少女は窓際の座れそうな場所を軽く叩き腰を下ろした。そして最初の一項目を開き読み始める。
勉強は嫌いだが本は大好きな少女、物語なので読み進むのは早く、半刻後には数えられる枚数しか残っていなかった。
淡々と項を捲っていると、何か挟まっているのに気が付いた。長細い紙には赤い薔薇が描かれていて、上部には紙紐が結ばれている。
「もしかして短冊かな?それにしてもやけに綺麗ね‥。」
その短冊は本とは違い真新しい。間に挟まっていたおかげで汚れなかったのかなと思うと、その短冊を見つめ微笑んだ。
「確か筆と硯合ったわよね、」
再び辺りを漁り目的の物を見つけると、近くの池から綺麗な水を汲んできて墨を研ぐ。そして出来た墨を筆にたっぷり浸し、短冊に筆を滑らせた。
「こんなものかな?」
コトリ‥と筆を置き短冊を掲げる。何を書こうか悩みもしたが結局これが一番の願いで、自分が書いた願いに瞳を細めた少女は…小さな声で呟いた。
「――…‥母様に、会いたい…」
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