野球と夏恋(前半)

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 直樹は、慎太郎からストレートのサインを見て頷き、振りかぶって投げた。そのとき、指先に変な感触がした。それは、完璧に、ボールが抜けた感触だ。案の定ボールは慎太郎のミットではなく、相手の腰にぶつかった。    相手は痛がるよりも、もちろん喜んだ。    これで、一点取られた。直樹の体力は限界に達していた。それでも、監督は動かない。直樹は思った。もうこれ以上投げるのは無理だと。  「すいませんタイムお願いします」慎太郎が審判に言って、マウンドによってきた。さらに、内野陣もよってきてくれた。  「大丈夫か?まだいけるか?」慎太郎が心配そうに言ってきた。  「もう結構つらい、体力が限界にきている」もう直樹はしゃべることもつらくなってきた。  「どうする、もう下がって柳に任せるか?」  「俺はそうしたい、けど・・」今ここで下がっていいのか?ここが踏ん張り所ではないのか?  そんなことを迷っている間に、審判から制限時間の声をかけられた。  「よし直樹、この回絶対守るぞ。内野もがっちりいくぞ」慎太郎から気合を入れる声が、かかった。  直樹はこの一分間で少し楽になった。やっぱり慎太郎に話しかけてもらうとなぜか楽になる。さっきまで変なことを思った自分が情けなくなった。  「ここからがっちり行くぞ」慎太郎がホームで掛け声をかけた。  直樹はロジンバックに手を付け、慎太郎のサインを見た。ストレートだ。  直樹は前の投球を忘れて思いっきり投げた。うまく、相手がゴロを打ってくれた。これでツーアウト。  「オーケー、ナイピッチ」慎太郎はチームを盛り上げてくれている。  次のバッターは一番バッターだ。三打席全て打たれている。しかし、逃げる訳にはいかない。  慎太郎からいつもより、慎重なサインが出た。アウトコースいっぱいのカーブだ。    直樹は自分に言い聞かせた。絶対に打たれないと。さらに、集中と気持ちを高めた。
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