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あの頃は、まだセーラー服に身を包みいかにも勤勉な高校生だった。
当時私は、クラスの男子とも挨拶しただけで赤面するほど内気な女の子だった。今の私を知る人からすれば想像もつかないだろう。
そんな私が足繁く通った店。
それは通りを少し入った所にひっそりと佇む小さな喫茶店。真っ白い外壁に真っ赤な瓦屋根。店先には小さな花壇があり、夏になると向日葵が揺れていた。
学校帰り、偶然見つけたその店先の向日葵に見惚れていたら
「向日葵好きなの?」
そう冷たいおしぼりを差し出され大層驚いた。
顔をゆっくり上げたら、日に焼けた褐色の肌に真っ白な歯が印象的な男の子が立っていた。
年の頃は私より一つ二つ上、といったところか。エプロンをしているから恐らくこの喫茶店の店員なのだろう。
いつもの私なら逃げ出していただろうに、なぜかその時は素直におしぼりを受け取った。
大人びた印象とは裏腹な、彼の子供の様な笑顔に安心したのかもしれない。
「こいつさ、どんどん育っていくからさ、そのうち店の中から窓の外見れなくなっちゃうかも、って心配してるんだ」
そう彼は言いながら優しく向日葵に触れた。
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