第一章 ザルバリアの現実

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 敷地面積は広大だ。田畑に変えれば何人の飢えて衰弱死する民を救えるか。  貧窮して、明日を生きられるかどうかの瀬戸際な民が見れば、殺意の一つでも抱くのはむしろ当たり前だろう。  パーティー会場に集まっているのは、ザルバリアでも名のある貴族の当主や子息に加えて、准将以上の武官だ。合計で二百人以上。あくまで目測の範囲内だけれど。  明かりは天井に吊るされた無数のシャンデリア。マナを吸収する装置を備え付け、それを動力として輝きを放っている。  簡単そうだが、シャンデリアほど大きい照明装置は、おそらく一般市民が十年間地道に働いてようやく買えるかどうか。それぐらい高価な物である。  それが無数に吊るされているこの光景を見れば、貴族がいかに民を愚弄し、自分の資財を蓄えてきたのかが良く解るというもの。  ――わたくしの家は父様の代で変わったと思ったのですが……。  唯一、民に施しをしてきたアリアの父。孤児を拾い、領地内に孤児院を創設し、数多もの優秀な人材を世に輩出してきた。  それも全て、今はない。  アリアの母が、全てを壊した。そんなものに割くお金はないと吐き捨てて。  父が亡くなったとき、孤児院にはまだ四十三人の子供たちがいた。  成人していた孤児院の出身者が、彼らのために手分けして里親を探してくれたからまだ最悪の事態にならなくて済んだのだが。  ーーわたくしが育てるのも、少し無理がありますし……。
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