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今なら引き取れたかもしれないが、当時はそんなお金も権限もなかった。それに鍛練の毎日で面倒を見る時間も皆無だったし。
アリアは給仕の者が持ってきたワイングラスを手に取る。飲む気はないけど、乾杯の時だけでも参加しないといけないからだ。
パーティー会場にいる全員にグラスが行き渡った途端、照明が一気に落ちた。真っ暗闇。魔法武芸者であるアリアにはあまり関係ない事態だけれど。
ざわざわとうるさかったパーティー会場が静まり返る。静寂。そして、一ヶ所だけ灯りが点いた。
そこにはこのパーティーを仕切っている貴族が立っていた。壇上から参加者を見下ろすその姿は、大貴族の当主に相応しい出で立ちだった。
――民のことも、ああやって見下しているのでしょうね。
ワイングラスを片手に、アリアは冷徹な瞳で演説を続ける貴族を眺める。
参加してくれたことへのお礼に続き、現在のザルバリア王国のことを。そして最後に自慢話がつらつらと言い放たれた。
このパーティーは表向きは有権者の会議ということだが、結局のところ貴族が自分の財力を自慢したいだけにすぎない。
――だから、無意味な時間なのです。
早く帰って鍛練したいな、と思っていると、暗がりの中から小声で注意された。
「アリアよ、もォ少し参加的にならないと、目ェ付けられるぜ」
「師匠……」
堅苦しいスーツに身を包んだ五十半ばの男が背後に立っていた。
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