第一章 ザルバリアの現実

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 不格好に伸ばし放題の茶色の髪に、いつも眠たそうなタレ目が印象的なアリアの師匠。元々父と仲が良く、アリアとも物心付いた時からの知り合いだ。  二十年近い付き合いである。  師匠のスーツ姿は何度も拝見しているが、やはりどこか似合っていない。堅苦しさと無愛想さが折り重なっていた。 「師匠はやっぱり戦闘服が似合いますよ」 「そりゃあ俺にスーツが似合ってないと遠回しに言ってンのか?」 「そうを受け取るなら、おそらくそうなのでしょう」 「相変わらず、親父譲りで俺に冷たいなァ、アリア。一ヶ月振りに会ったンだから、ちっとは喜ぶ素振りを見せやがれ」  そう言い、手にしていたグラスに入っていたお酒を飲み干す。まだ乾杯はされていないというのに。  彼にとって、こんなパーティー、お偉いさんに呼ばれたから嫌々来てやったという考えしかない。  だからこそ、そんな型破りな事ができるのだろう。 「一ヶ月もの間、師匠はどちらへ行ってたんですか? (わたくし)が屋敷へ訪れてもどこへ行ったか教えてくれなくて」 「あァ、なんつゥか。誰にも教えてなかったからな、俺がどこに行くかとか。お前には教えといてやるべきだったのかもしンねェな」  そう言い、師匠は肩を竦めて、 「いや、やっぱりこんなパーティー会場でする話じゃねェな。また今度、お前の屋敷に足を運ばせてもらうぜ」 「それは構いませんが……」 「ンじゃ、この話はおしめェだ。バインツバルド家の次期当主となる餓鬼の演説でも聞いてやろうじゃねェかよ」
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