第一章 ザルバリアの現実

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 師匠の言葉通り、今まさにバインツバルド家の次期当主が壇上に登った所だった。見たことがある。何回もパーティーで話をしたりしたことのある仲だ。  キリッとした鋭角な顔つきに相応しい冷たい(みどり)の双眸。髪型はオールバック。装飾の散りばめられた服を着る身体は痩躯。魔法武芸者でもない。  そんな彼にアリアが興味を抱くはずもなく、話し掛けられる度に適当にあしらって来たのだが――。  今回は、違った。 『皆様、我がバインツバルド家の主催パーティーに参列してくださったこと、心よりお礼の言葉を申し上げさせてもらいます』  まずは丁寧な挨拶から。型通りのやり方だな、とアリアは壁に背を預けながら思った。 『現在、ザルバリア王国は試練の時を迎えております。農作物の不作の年が続き、民は飢え、そして“星屑の聖座”という猟兵団が闊歩しているこの状況、まさに百年に一度あるかないかの災厄です!』  不作の年でも例年通り税を徴収する貴族が言うことじゃないですね、とアリアは小声で呟いた。  すると隣から、 「お前、まさか今年、自分の領地から税を徴収しなかったンじゃねェだろうなァ?」 「しませんでしたよ? 逆に去年の蓄えを私から授けました」  それほど今年の不作は凄まじかった。民は痩せこけ、生きていくので精一杯な姿を見れば、税の徴収などできよう筈もない。  さも当然だと答えるアリアに、師匠はクックックッと忍び笑いして、 「そんな馬鹿、俺だけだと思ってたンだがなァ」
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