第一章 ザルバリアの現実

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 声を荒げると、師匠はともかくだなと強引に話を戻した。 「お前が結婚したくないって駄々をこねても、今さら無理ってこった。観念するしかねェンじゃねェのか」 「で、ですが――」 「俺としても、お前は親友の娘だし、弟子としても幸せになってほしいと思ってンだがなァ。勝手に結婚をぶち壊す訳にもいかねェしよ」  どうしたもんかねと師匠が足を組み直し、片手で髪を掻き毟る。アリアが小さい頃から見てきた、師匠の考えている時の癖だ。 「お前は結婚したくねェンだよな?」 「はい、勿論です」 「即答だもンなァ。お前の親父さンなら、こンな横暴な結婚はさせねェンだろォが、お前の母親は……貴族主義に染まっちまったからよ。仕方ねェ部分もあンだよ」  貴族は貴族としか結婚してはいけない。そんな法律は無いものの、暗黙の了解として、他家との繋がりを強くするため有力な家系と結婚させられることがほとんどである。  つまりは、政略結婚だ。  特に現在のザルバリア王国は、二年前に終戦を迎えたミシュミランとの“資源戦争”のせいで、国力が貧窮している。  どの貴族も生き残るために必死なのだ。それはおそらくバインツバルド家も例外ではない。  そのため、同じ大貴族のアリアを嫁に迎え、ライドラール家と太い繋がり《パイプ》を持とうとしている。 「大人の都合とはいえ、餓鬼を利用するとはなァ。なんとも都合の良いこった」 「……わたくしは既に二十一歳ですが」 「俺からしたら子供なンだよ。バインツバルド家の長子もお前もな」
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