第一章 ザルバリアの現実

16/36

5217人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
 ――師匠はもう五十半ばですからね。  そろそろ引退して、若い者に後を継がせるべき年齢に差し掛かっている。  師匠曰く「俺は生涯現役だ」と鼻息荒くして言っていたけれど、前よりも動きにキレが無くなりつつあることも確か。  知謀の方は幾分も歪んではいないが。 「おいおい、どォした、急に黙り混みやがって。結婚のことなら諦めろとは言わねェが、望み薄とだけ考えてろ。俺の方でもなンとかできねェか対処してみっからよ」 「ああ、いえ。そういうことではなく、そろそろ本題に入らなくてはいけないと思うのですが」 「本題、ねェ。お前にとったら、婚約の方が本題だと思うがな」 「確かにそうですが、わたくしが慌てていても事態は解決しませんから。ここは師匠に任せます」 「ほう? 近々見ないうちに何とも物分かりが良くなったじゃねェか。お前が婚約の事で頭一杯になってるだろォから、今日は話さないでおこうと思ってたのによ」  師匠は破顔した後、急に真面目な顔になり、居ずまいを正した。低い声で言う。 「俺がここ一ヶ月、王都に居なかったのはな。とある遺跡を調べていたからなンだよ」 「とある、遺跡ですか?」  ザルバリアは遺跡が多い。雪で入り口が塞がれていたり、そもそも発見できなかったりという理由のせいか、遺跡を狙う盗賊や猟兵が他国と比べて少ないからだ。 「あァ。それも下手したら、レスベルとレオンハートの秘密が一気に解決するかもしれねェ遺跡だ」
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5217人が本棚に入れています
本棚に追加