第一章 ザルバリアの現実

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          †  寒さを感じない。薄手の服装。見た目よりも快適さよりも、軽やかさや戦闘に支障が出ないように施されたアリア特注の服装である。  首にマフラーが巻かれており、唯一これだけが防寒具の意味を果たしているのではないのか、と第三者は思うに違いない。  アリアが寒さを感じない理由は単純明快な物だった。  この世界には“マナ”と呼ばれる物質がある。空気中に、人間には視認することもできないぐらいの小さな小さな物質だ。  それは『始まりの場所』に生えているとされる巨大な樹から放出されているらしいが、真偽のほどは定かではない。  いや、この場合、真実とは意味を持たないのだろう。“ただそこにあるから”。人類にとって、マナとはそういう物としか認識されていないのだから。  そのマナを『魔輪』と云う特殊な器官を宿した“特殊な人間――魔法武芸者”が吸い込むと、とある力に変換される。  『魔力』と呼称されるそれは、魔輪を体内に宿した人間全員が扱える。力の強弱や才能などは当然ながら影響してくるけれど。  その魔力を更に高く昇華させた物が『魔法』だ。  魔法は炎、水、風、土石、雷に別れている。一人の人間が扱えるのは、それらの中から一種類だけだ。  アリアは炎の魔法を使役できる。  そのため、絶えず炎の魔法を全身に流し、体内温度を調節しているからこそ、薄くて軽やかな服装でも極寒の大地に対応できるのだ。
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