第一章 ザルバリアの現実

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 遺跡の中は、ここが既に異界だと云う認識を(くつがえ)してしまうほど穏やかで静寂に満ちた場所だった。  壁という壁を古代文字がビッシリと埋め尽くし、柱の表面には変な絵まで刻まれている。  ――これは何でしょうか?  巨大な鳥が飛んでいる。翼の下に円筒のような物が取り付けてあるけれど、こんな鳥は本の中にも見たことが無い。 「……不思議なところですね」  アリアとて、遺跡の調査はこれが初めてではない。父がまだ健在であった頃、師匠と父とアリアの三人で散歩と称した遺跡調査に出掛けたことがある。  それはもう懐かしい思い出だけれど、決して色褪せない幸せな日々の一つだった。 「あの時の遺跡とは、やはり雰囲気が全く違います……。やはり、レオンハートやレスベルの秘密が眠る場所なのでしょうか」  ゆっくりと進む。一定の距離を置いて建てられた柱に描かれた絵や文字を眺めながら、どこかに隠し通路などが無いか、確認しながら先へ歩む。  ――この遺跡、どこかおかしい……。  そこから歩いて、数分。  アリアは違和感を通り越して、ある種の畏怖に取りつかれ、(さいな)まれた。  ここは、おかしいと。  遺跡なのに、どうして、ずっと一本道なのだろうか。  ずっと。ずっとだ。分かれ道が無い。迷路になっていない。階段も無い。緩やかな斜面や水平な通路が一本道のままあるだけ。  不可解にして、不気味な構造。  ――これは、いったい……。  疑問が強まっていくと、唐突に変化が現れた。 『止まれ、愚かな人の子よ』  呼気が止まった。いや、止められた。頭の中に直接ぶちこまれた言葉に認識が追い付いた途端、呼吸が出来なくなった。
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