第一章 ザルバリアの現実

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『そなたは、何用をもって、我が領域に足を踏み入れる? 邪念故のものならば、今すぐここから立ち去れ』  その口調には、重みがあった。何者にも屈しない、されど認めた者には相応の対応する。その思いが言霊に乗せられているかのようだった。  アリアは下がらず、グッと堪える。 『……死して尚、果たすべき物があるのか?』 「…………」  肯定する。  未熟な力を嘲笑いつつも、アリアは師匠への恩義を果たせるのなら、死んで行くことも有りかなと思った。  それぐらいの、恩義がある。  父が亡くなり、自失呆然のアリアに“新たな道”を造ってくれたのは師匠だった。  互いの願いは一致して、父が亡くなってからこの国を良くしようと抗ってきた。  それも(ひとえ)に、師匠の道標があったからこそ。そのための礎になるというのなら、この命、差し出しても構わぬくらいだ。 『……そなたの心意気、とくとご覧した。……進め。久方ぶりに見る、気骨ある武人よ』  思考を現実に向けると、いつの間にか喉を圧迫する息苦しさから解放されていた。  座り込んでいた足を叱咤して、アリアは荒い呼吸を整えつつも先に進むことに。怖さはあるが、それよりも興味が勝った。  話しかけてきた存在は、一体どのような『モノ』なのだろうか、と。
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