5217人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
『そなたは、何用をもって、我が領域に足を踏み入れる? 邪念故のものならば、今すぐここから立ち去れ』
その口調には、重みがあった。何者にも屈しない、されど認めた者には相応の対応する。その思いが言霊に乗せられているかのようだった。
アリアは下がらず、グッと堪える。
『……死して尚、果たすべき物があるのか?』
「…………」
肯定する。
未熟な力を嘲笑いつつも、アリアは師匠への恩義を果たせるのなら、死んで行くことも有りかなと思った。
それぐらいの、恩義がある。
父が亡くなり、自失呆然のアリアに“新たな道”を造ってくれたのは師匠だった。
互いの願いは一致して、父が亡くなってからこの国を良くしようと抗ってきた。
それも偏に、師匠の道標があったからこそ。そのための礎になるというのなら、この命、差し出しても構わぬくらいだ。
『……そなたの心意気、とくとご覧した。……進め。久方ぶりに見る、気骨ある武人よ』
思考を現実に向けると、いつの間にか喉を圧迫する息苦しさから解放されていた。
座り込んでいた足を叱咤して、アリアは荒い呼吸を整えつつも先に進むことに。怖さはあるが、それよりも興味が勝った。
話しかけてきた存在は、一体どのような『モノ』なのだろうか、と。
最初のコメントを投稿しよう!