5217人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
「“アベル・ディアレス”という少年、ですか」
『そなた、知っておるのか?』
「い、いえ。申し訳ないですが、わたくしは知りません。それよりも、永劫というのはどういう意味で……?」
『文字通り“永遠”である。彼の者が現れるまで、ここで永久に待ち続ける。それが我輩の最大の使命なのだから』
永遠なんて言うものは、幻想だ。死を畏れた人間が口にした物に過ぎない。永劫、永久、不滅。あり得ない。
いつかは朽ち果て、いつかは終わりを迎える。それが世の常で。それが世の理なのだから。
「現れるまで、ずっと……」
『そう。現れるまで、我輩はここにいる。居続ける。なに、苦労も苦痛も辛苦も味わう必要はない。この異界をある程度進む輩が現れるまで、途切れることなく休められるのでな』
ぬいぐるみが壁に背中を預けて床に腰かけた。どうやら本気でアリアをどうこうしようという気は失せたらしい。
真の姿がどのような物か知らないが、今のところ、このぬいぐるみが嘘を吐いている様子は無かった。
「わたくしが、ある程度進んでから息苦しさを覚えたのは……」
『我輩が目覚めたからだ。ついに現れたかと思ったのも束の間、そなたが視界に入ってつい荒事に走ってしまった。謝ろう』
「い、いえ。わたくしも押し入ったりして申し訳ありませんでした。ところで、貴方は人間なのですか?」
『いや、違う。大別的に分類するなら、我輩は夜叉の部類であろう。虚空夜叉、と呼べる存在かもしれんな』
最初のコメントを投稿しよう!