第一章 ザルバリアの現実

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「“アベル・ディアレス”という少年、ですか」 『そなた、知っておるのか?』 「い、いえ。申し訳ないですが、わたくしは知りません。それよりも、永劫というのはどういう意味で……?」 『文字通り“永遠”である。()の者が現れるまで、ここで永久(とわ)に待ち続ける。それが我輩の最大の使命なのだから』  永遠なんて言うものは、幻想だ。死を畏れた人間が口にした物に過ぎない。永劫、永久、不滅。あり得ない。  いつかは朽ち果て、いつかは終わりを迎える。それが世の常で。それが世の理なのだから。 「現れるまで、ずっと……」 『そう。現れるまで、我輩はここにいる。居続ける。なに、苦労も苦痛も辛苦も味わう必要はない。この異界をある程度進む輩が現れるまで、途切れることなく休められるのでな』  ぬいぐるみが壁に背中を預けて床に腰かけた。どうやら本気でアリアをどうこうしようという気は失せたらしい。  真の姿がどのような物か知らないが、今のところ、このぬいぐるみが嘘を吐いている様子は無かった。 「わたくしが、ある程度進んでから息苦しさを覚えたのは……」 『我輩が目覚めたからだ。ついに現れたかと思ったのも束の間、そなたが視界に入ってつい荒事に走ってしまった。謝ろう』 「い、いえ。わたくしも押し入ったりして申し訳ありませんでした。ところで、貴方は人間なのですか?」 『いや、違う。大別的に分類するなら、我輩は夜叉の部類であろう。虚空夜叉、と呼べる存在かもしれんな』
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