第一章 ザルバリアの現実

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「……本当ですか?」 『そう身構えずとも、我輩は人間に危害を加える事はしない。勿論、人間の方から何かを仕掛けてきたのなら、遠慮も考慮もしないがな』  思わずアリアは全身を強張らせ、鳥肌を立たせた。  猟兵を倒すのと同様に様々な夜叉を討滅してきたアリアだけれど、このぬいぐるみは違った。  ラシャ自体が虚空夜叉と名乗っていることから、その言葉自体に疑いは無いのだが。  ――ただの夜叉じゃ……ない。そもそも、夜叉の概念から越えている……? 「アベル・ディアレスを待っているのは、どうしてですか?」 『答えても良いが、聞いた内容をアベル・ディアレスに教えるでないぞ。それだけは約束してくれ』 「……解りました」  有無を言わせない声音。威圧感。絶対的とも言える存在感に、アリアは首を縦に振るしかなかった。  無論。  アベル・ディアレスという少年に会える可能性なんて、ほぼゼロパーセントに近いのだろうけれど。 『我輩がアベル・ディアレスを待つのは、“あやつ”に頼まれたからだ。会って、話して、戦って、見極めてくれと』 「……見極める? その、あやつというのは、一体どなたで……」 『そんなもの決まっているだろう』  今さら何を聞いているんだ、とぬいぐるみがアリアを見上げる。その姿形だけを(かんが)みれば可愛いのだが。  アリアを取り巻く緊迫感は嘗て無いほど高まっていた。 『レオンハート・ウォルガナス・シュバルツアだ』
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