第一章 ザルバリアの現実

32/36

5217人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
『クククク、あやつめが……。後世にあの名前を知らされたくないからか、わざと名乗らなかったのだな。相も変わらず、面白いやつよ』 「あの名前?」 『すまぬな、気骨ある武人よ。あやつ自身が後世に残したくなかったのならば、我輩が勝手に口を開くわけにはいかぬ』  非常に気になる。  レオンハートの事は何もかもが謎のベールに包まれている。おかしいぐらいに。不自然なぐらいに。彼の事を知るものはいない、という常識は、ここ百年の間で、人類に定着されていった。  その常識を、根本的な部分から百八十度真逆にする存在が発した言の葉。気にならないわけがない。 「では。馬鹿みたいな人間というのは?」 『なんだ……。それも今の人の世には伝わっておらぬのか? あやつめ、我輩の言った事を気にしていたのか?』  ぬいぐるみはアリアを見上げて、 『簡単な事。あやつはな、馬鹿なのだよ。他人任せで人任せ、女好きで甲斐性無し、酒好きで寝るのが大好き。どうだ? 人の世から見たら、こんな馬鹿で使い物にならん人間もおらぬだろう?』  想像と。推測と。理想と。  何もかも違うレオンハートの素顔。もし、仮に本当だとしたらの話であるけれど。  ――嘘を吐いている様子はありませんし。  ぬいぐるみを観察して、そんな確信を抱くのもアリア自身どうかと思うが、何故か嘘を吐いていないと確信できる。  不思議だ。  そして、ショックである。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5217人が本棚に入れています
本棚に追加