第一章 ザルバリアの現実

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 先程までの軽い口調で話すイメージがすっかり出来上がっていたために、アリアは面食らった。まじまじとぬいぐるみを見詰める。  向こうも、アリアを見上げていた。 「何故、ですか?」 『この遺跡は、ただここに存在しているわけでは無いからだ。歴史を後世に遺すためだけに存在しているのではなく、レオンハートの遺した“とある機能”を兼ね備えている』 「とある機能?」 『そなたの調査で、もしもそれが今壊れてしまえば世界の崩壊に繋がるであろう。我輩にはそれが解る』  世界の崩壊とは、文字通りのこの大陸や数多くの島々を含んだ“世界”が崩壊するということか?  逆に、この遺跡は世界の安寧を支えているというのか? 異界の拡がる異質な遺跡とは言え、たった一つの遺失物の痕跡が世界を護っているだと。  途方も無い話だが、アリアは信じた。  信じてしまうぐらいの、数多くの証言や事実を知ってしまった。そして、不可思議なぬいぐるみがそう言うのだから、その言葉は真実なのだろう。 「そう言うことであるのなら、致し方ありませんね」 『すまぬ。しかし、我輩は頼まれているのだ。アベル・ディアレスがこの遺跡に足を踏み入れるまで、この遺跡には誰も手を出させるな、と』  誰に、と疑問に思ったが、結局アリアは訊かなかった。訊かずに、その場を後にした。遺跡から去った。  そしてそれを、アリアは六年後に後悔する羽目になる。 『気骨ある武人よ、有愛(ありあ)よ、願うことならもう会わないでおこう。我輩は、虚空夜叉に近く、虚空夜叉では無いのだから』
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