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†
異界の拡がる古代遺跡から抜けたアリア・ライドラールは、約一キロ先にある小さな村へ戻るために森の中を一人歩いていた。
それなりの収穫があった。
ラシャの言葉が真実なら、あの遺跡はレスベルが作り、レオンハートとも関わっていて、驚くことに世界の安寧を支えている大事な場所のようだ。
師匠の願いは調査だったけれど、ラシャは赦さないに違いない。現に『調査をしてはならぬ』と忠告した時のラシャは、明らかに虚空夜叉の実力を超越していた。
“あれ”は、自身を虚空夜叉だと定義していたようだけれど、アリアは違うと思う。尤も、では何なのかと問われれば首を傾げるしかないのだが。
「取り敢えず、師匠に報告しなくてはなりませんね」
早く王都に帰ろうと、歩みの速度を増そうとしたその時だった。
村のある方角から、誰かが此方に向かって歩いてきていることを音で察した。
――観光客? こんな辺鄙な土地に?
自らのことを棚に上げて、アリアはそんな疑問を心中で口にした。
村人では無いだろう。どうやら彼らはあの遺跡を畏怖しているようで、絶対に近づかないとのこと。貫禄のある村長が震えながら言っていたのだからまず間違いない。
「……お、人間発見! おーい!」
と。黙考している間にも、歩み寄ってきていた人間がアリアを視界に捉え、今度は小走りで近付いてくる。
人懐っこい笑みを携えながら。
「いやー。アンタ、遺跡からの帰りか? こりゃ良かった。ラッキーラッキー。実はさ、オレも遺跡に用があって……――」
「取り敢えず、落ち着いてください」
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