第二章 悪魔の団体

9/35

5217人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
「私は……」  貴族です、と言おうとした。  だけど、直前になって止めた。口を閉ざす。何故? 今までだって、何も気にせずに貴族だと名乗ってきたというのに。  アリアは可笑しな自分に振り回されつつも、 「……いえ、普通の平民ですよ」 「……んー、どっかで見た覚えがするんだよなぁ。人違いか? いやいや、アンタみたいな超絶美人さんを忘れるわけねェし」  簡単にバレる嘘だった。アリアは貴族だ。それも、他の貴族とは違い、彼女の治める地方からは絶大な人気を誇っている。  アリア・ライドラールは確かに有名人だった。  彼女は意味の無い嘘を嫌う。  それでも、一刀には貴族だと知られたくなかった。こんな子供みたいで無邪気な青年に、恐れを感じさせる表情を浮かばせたくなかったからか。 「超絶美人さんって、それは余りにもお世辞が下手ですよ」 「あ、笑った!」  ストレートすぎるお世辞に苦笑すると、一刀がこれ見よがしに指をさす。けれど、何も馬鹿にしているとかではなくて。 「アリアはさ、めっちゃ綺麗なんだからもっと笑ってた方がいいって。うん、あと可愛いし。ファーも、きっと気に入りそうだな。……ファー? ――ッ! ヤッベ、アイツ、絶対お腹空かせて切れてやがる!!」 「え、あの、どうかなさいまし――」 「ちょ、オレに着いてきて! 飯奢ってやるから! よし、決まりだ!」 「いえ、まだわたくしは何も――」  アリアの発言を待たずに、一刀は彼女の腕を掴んで村の方へと走る。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5217人が本棚に入れています
本棚に追加