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連れてこられたのは、村の酒場だった。店の四隅には暖炉があり、その近くのテーブルは全て占領済み。
仕方なく、誰も座っていない四人掛けのテーブルを選び、アリアは腰を掛けた。久し振りに座った気がする。
そして、いつの間にか、篠原一刀は背中に小さな女の子を担いでいた。あどけない寝顔を浮かべる少女はすやすやとお休み中。可愛い。
「悪いな。どうやらふて寝しちまったらしい。ああ、コイツは“ファー”って言ってな。とは言っても、あだ名なんだが……。本名を口にすると、コイツ、スッゲー怒るんだよ」
「ファーさん、ですか」
「さんなんていらねェよ。見ての通り、チビッ子だからな。強気でOK。だけどなァ、オレ、コイツには弱いんだ。というか、チビッ子には弱い。対応が難しいんだよ」
「そうですね。子供は素直な反面、気難しい所がありますから」
一刀も向かい側に座る。少女は彼の膝に頭を乗せて、足を長椅子の上に伸ばしている。礼儀作法の面から判断すれば最悪だが、アリアは追及せずに微笑んだ。
――孤児院が懐かしいですね。
今も、孤児院出身者は元気にしているのだろうか。それぞれちゃんとした仕事を持っていると聞いているのだけれど。
「なァ、アリアは何飲む? やっぱりラム酒か? 葡萄酒も旨ェよな」
「一刀さんは、どちらを?」
「いやいや、ちょっと待ってくれよ。カズトで良いって、よそよそしィな。もっとフランクに、フレンドリーに接しようぜ」
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