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アリアが呆気に取られている間に、一刀の持ったタオルが近付く。そのまま抵抗せずに、口周りを拭かれた。
――……お父様――。
「よし、これで綺麗。アリアはアリアなりに飲めばいいんだって。無理してオレに付き合わなくていいぜ。アリアは綺麗なんだから、口周りが汚れていたら皆がガッカリするしさ」
「は、はい……。あの、ありがとうございます」
「おう! いいってことよ! 美人の口を拭かせてもらうなんて役得役得。できるなら、もう一度って感じだなー」
「もう一度!? 駄目です、恥ずかしいですから!」
「冗談だって」
一刀が笑って、頬杖を着く。
「アリアってさ、不思議な奴だなァ。どこか気品があるけど、貴族みたいに他人を見下す感じはしないし。かと言って、庶民でもなさそうだ」
値踏みするような視線に、アリアもジョッキをテーブルに置いて居ずまいを正した。
――やっぱり、バレてるのでしょうか……。ですが、ライドラール家の一人だとバレたくない――!
楽しいのだ。この一時が、どうしようもなく。心が歓喜している。
一刀と居ると、まるでアリアが普通の女性に戻ったような錯覚を受ける。
大貴族の跡取りでも、猟兵団を駆逐しようとする魔法武芸者でもなく。ただ一人の人間として、接することのできる。
「あ、あの――」
「なーんてな!」
気まずい沈黙をなんとか打開しようとした瞬間、一刀が一層子供みたいな笑みを形作った。
「アリアが話したくなるときまで待つさ。オレ、無理矢理聞き出すこととかしねぇことを心情としているからな」
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